東京家庭裁判所 昭和63年(家)3122号 審判 1988年10月25日
申立人(受託者) 山野コト
事件本人(委託者) 前田平良
主文
事件本人が昭和19年11月頃、申立人に対し、事件本人と中国人女性との間に生まれた高大飛こと前田悟を認知する届出を委託したことを確認する。
理由
1 申立ての要旨
事件本人は父前田幸助と母前田ソメの三男であり、妻ノブエとの間に5子をもうけた。予備役中、召集され中国の上海で軍務についていたが、戦線の拡大により昭和19年11月頃、南方へ転戦を命じられ、挨拶のため兄幸一のもとを訪れた。その際、事件本人は幸一及び申立人に対し、「上海で入院中世話になつた中国人の看護婦と親しくなり、その間に男の子が生まれ悟と命名した。この度出征すれば死は覚悟のうえであるが、唯一の心残りは、中国に残してきた悟の将来のことである。どうか私に代つて認知届を出してほしい」旨依頼し、更にその翌日事件本人の出征を見送つた申立人に対し、子供のことはよろしく頼むと言い残して行つた。事件本人は昭和20年4月24日、フイリツピンで死亡した。
以上の次第で、上記の認知届出委託の事実は真実であるから、その確認を求めるべく本件申立てに及んだ。
2 当裁判所の判断
本件記録に添付の資料及び東京家庭裁判所調査官○○○○の調査結果並びに前田正の審問の結果等一切の資料によれば、申立人の主張するごとく、事件本人が出征に際し、幸一及び申立人に対して上記の認知届出の委託をした事実が認められる。
よつて昭和15年法律第4号「委託又は郵便による戸籍届出に関する件」戸籍法138条に基づき認知届出の委託確認を求める本件申立ては相当であるからこれを認容し、主文のとおり審判する。
(家事審判官 日野忠和)